「ざいぜん?変わった名字やなー」

新入部員の名簿を見ながら言ったその人は、ヤンキー顔負けの金色の髪をした人やった。

歓迎会と言う名の馬鹿騒ぎ。毎年恒例であるらしいこの行事は人見知りの俺には苦痛でしかなかった。
騒ぐのも柄じゃないしと壁際で一人立ちつくしていると、ふとそんな声が聞こえて顔を上げる。
金髪のその人は多分先輩で、本人がすぐ傍におると知らずに口に出したんやろう。小学生の時から言われ続けた事ではあるが、未だに良い気のするもんやない。
その時点で俺はその人を自分の中の嫌いカテゴリーに掘り込んで顔を逸らした。髪色が目に痛いっつの。

「なぁ自分、そんな隅おらんとこっち来ぃや」

すっと影が差したかと思ったら、目の前にさっきの先輩が立っていた。顔が歪みそうになるのをなんとか堪えて小さく首を横に振る。

「え、なんで?自分一年やろ?」
「そうっすけど」
「これ一年の為の会やねんから」
「や、ここでいいです」
「…そうか?」

そこまで言えばもう構う気を無くしたのか、先輩はおずおずとその場を後にした。
それでいい。必要以上に仲良くする必要なんかないし、嫌い分類した奴に構われてもウザいだけや。
再び俯いて、震えてもいない携帯を取り出す。入学祝に買って貰った最新機種。
暇やしブログでも更新しようかと思ったところで、目の前に何かが差し出された。

「え…」
「はいこれ。何も飲んでないやろ?」

差し出されたのは紙コップ。差し出したのはさっきの先輩。
数度紙コップと先輩を交互に見れば、やや強引に右手に渡されて先輩はそのまま壁にもたれる。
呆然としていると、ジュースを一口飲んだ先輩から満面の笑みを向けられた。

「俺、忍足謙也。二年生、独身です」
「は、あ…?」
「…そこは独身なんは当たり前やろって突っ込むとこやで」

軽く俺の腹を叩いて先輩はお前まだまだやなぁ、なんて言って再び笑う。
なんやこの人。俺の関わんなオーラに気付かんの?ていうかおしたりって、自分も十分変な名字やんか。
それら全て口には出さず、なんとか飲み込んで自分も今一度壁にもたれた。紙コップの中身は多分紅茶。一口飲んで眉をしかめる。無糖やんこれ。

「なぁ、お菓子食べんでええん?折角食べ放題やのに」
「…いいです」
「遠慮しいやなぁ。あ、甘いの苦手とか?あっちカラムーチョあったで」

甘いのは寧ろ好きです。そんな事実教えてやる気にもならなくてもう言い返す事もせず只首を横に振った。
そしたら先輩はそっかぁ、と呟いてからもう何も言わなくなった。
それでもその場から離れようとはせず、徐々に居心地の悪さを感じているといきなりそうや!と声を上げた。

「名前聞いてへんかった!」
「え?」
「名前、お前の。なんて言うん?」
「………」

思わず喉を詰まらせる。先程あんな言葉を聞いたばかりで、正直に名乗る気になる筈もない。
暫く考えて、返事を待っている先輩を見上げて小さな声でどうにか告げた。

「ひかる」
「ん?」
「光、です」
「そっか、光か」

宜しくな光、なんて。名字を名乗らなかった事を不思議にも思わないのか、先輩は空いた方の手を差し出してくる。
ここで拒否るのも変だと思いそっと手を差し出すと、冷えた自分の手とは違い酷く暖かい体温を感じられた。
その時点で俺は彼が知る俺、よりも多くの彼を知った事となった。






「光、次俺らダブルスやって」

軽く背中を叩かれて振り返れば、合いも変わらず眩しい金髪が真っ先に視界に広がる。
この人は変わらない。出会った頃からずっとずっと、何一つ変わる事がなかった。
ひかる。俺の事をそう呼ぶのも、変わらない。
俺の名字が財前と知っても、謙也さんはそうする事を止めなかった。変な名字。でも俺も人の事言えんわって笑った顔が忘れられない。
その時から今までで、俺は変わった。少なくとももう、謙也さんは自分の中の嫌いカテゴリーにはいない。

「謙也さんと?また俺お守役っすか。勘弁してや」
「なんやとこらっ!ほんまお前生意気やわ!」

わざと溜息混じりに言えば、声を荒げて人のセットした髪をぐしゃぐしゃにかき回す。でもその後はちゃんと整えてくれて、笑顔で「行くで」なんて言われる。
この人は俺に甘い。どれだけ辛辣な事を言っても、横柄な態度を取っても、いつでも最後は笑ってくれた。
ほんましゃーない奴。そう言いながらも謙也さんは笑う。
その笑顔が眩しくて、最初は苦手やったのに。いつからか、掛け替えのない大好きなものへと変わった。
だから目で追うようになって、気が付けば謙也さんについて知ってる事が多くなり過ぎた。
ペン回しが速い事や、使ってる脱色剤。ヘアワックスのメーカー、そんな些細な事ばかりが、沢山。
謙也さんは俺がそれらを知っている事すら知らない。出会ってからこっち、彼の知る俺が俺の知る謙也さんを超える事は一度も無かった。
そして、今後も一生無いだろう。だって彼が甘いのは、何も俺一人にだけじゃない。
情を固めて出来た様な人。大勢に愛される彼を、誰にも愛されない俺が、勝手に見てるだけ。
そして、知っている。それだけ。
些細な事も積み重なれば膨大な量となり、その謙也さんを知り過ぎた俺はと言えば。
出会って二年目に入って遂に、彼を好きなのだと自覚した。






身体が重かった。いや、ほんまに重いのは頭かもしれん。
眠り慣れたベッドに制服を着たまま転がって、もうどれ位時間が経ったのかもわからへん。
遠征疲れよりも何よりも、心が疲れきってた。
あの人の中学最後の夏。全国大会。パートナーであった筈の、あの人。
大舞台で組む筈やったダブルス1。
結局俺はあの人の事を知っていたとしても、何もわかってはいなかったんやと思い知らされた。
あれだけ練習したフォーメーションが無駄になったとか、結局俺まで試合に出れんかったようなもんやとか。そんなん正直どうでもよくて。
あの人の事を理解出来ていなかった事が、酷く心に傷を残した。

「靴下は絶対右から履く、携帯に従兄弟専用フォルダがある、首の付け根をかく癖がある…」

皆が知ってるような事から、誰も知らんような事まで。一つづつ呟いてみる。
次第に、見上げた天井がぼやけてきた。全国決勝進出が経たれた時でも流れなかった涙が、今になって湧いて出てきたらしい。
こんな事知っていても無駄や。何の意味もない。
彼の事を知れば知るだけ近づけたと思った。思っていた。やのに。
それは全て俺の勘違い。独りよがりな自己満足でしかなかった。それに気付いた今、これまで生きてきた中で一番悲しい。
謙也さんが好き。大好き。ずっと傍にいたい。誰よりも、彼の事を知っていたい。でもそれよりもずっと。
俺は、彼の良き理解者でありたかった。





ふと意識が浮上した時、視界は既に薄暗かった。どうやら泣きながら寝てしまったらしい。
身体を起こして時間を確認しようとするが、暗闇の所為ではっきりと数字が読めん。
そう言えば制服のままやったと気付いてポケットを漁る。携帯を引っ張り出してサブ画面を見れば、もう夜の十時を過ぎてた。
こんな時間まで部屋に籠りっきりで声もかけられんかったって事は、家族もそれなりに気を使ってくれたんやろうか。全国大会準決勝で負けた事は伝えてあるし。
正直有難いと思いながら二つ折りの携帯を開くと、新着メールが二件。サイレントモードのままやったから全然気づかんかった。
ボタンを押すと、未開封のメールが届いているフォルダは一つ。謙也さん専用に設定しているフォルダで吃驚した。
慌ててボタンを連打すると、メールには「待ってるから。」の一言。送信時刻は九時五分。
意味がわからなかったが、自分が二通目から読んでしまった事に気付いて一通目を開く。

お疲れさん。今お前んちの近所の公園おんねんけど、出て来れる?

文字を目で追って、そのまま暫く固まった。送信時刻は、六時半。
慌てて起き上がり電気を付けて壁時計を見れば、やはりもう十時を回っている。
なんでやねん。九時まで待ってメール送ってくる位ならすぐそこやねんから家まで来たらええやん。やのになんで。
そんな事を考えながらも弾かれるように駆け出した。階段を二段飛ばしで降りて、家族に声をかける余裕すら無く家を飛び出す。
公園まで徒歩五分。走れば、二分もかからん筈や。
起きてすぐの事やからすぐ息が上がる。なんや足が痛いと思ったらスニーカーやなくておとんのつっかけ履いてしもてた。
でも替えに戻る気にもならず一心不乱に公園を目指す。すぐに見慣れた場所に着いて、勢いよく入口の柵を飛び越えた。
息を乱したまま見渡すと、小さな公園に一つだけあるベンチに丸まった背中が見える。間違える筈もない。

「…謙也さん」

消え入るような声で呼んだのにそれはどうにか届いたらしく、肩がひくりと揺れて謙也さんはゆっくりとこちらを振り向く。
俺を視界に入れた途端微笑んだ謙也さんはどこか重い空気を纏っている様に見えて、また心が痛んだ。

「こんな時間にゴメンな」
「いや…こんな時間なった俺の所為やし…てか何時間待ってんすか」
「何時間でも待つ気やったよ」

光が来るまで。そう言って謙也さんはまた笑った。
あかん、頬が熱い。赤くなったりしてるんかな。でもこの暗闇では気づかれる事もないやろうと気を落ち着かせて自分もベンチに座る。
途端、謙也さんは立ち上がってすたすたと歩き出した。
隣に座ったのがまずかったのかとか、距離詰め過ぎたかとか考えてる間に向かった先が自動販売機やと知って一人安堵する。
小銭を入れてボタンを押して取り出して、を二回繰り返して戻って来た謙也さんの手には二個の缶ジュース。
一つはスポーツドリンクで、もう一つはアイスココアやった。案の定、アイスココアが目の前に差し出される。

「流石にこの時期缶汁粉は無いな」
「まぁ、そりゃそうでしょ」

一応軽く頭だけ下げて受け取り、ひんやり冷たいそれを掌で転がす。
再び隣に腰を下ろした謙也さんはプルタブを上げ、勢いよくスポーツドリンクを飲み下した。
この蒸し暑い中何時間も外に居た謙也さんの額にはうっすらと汗が浮かんでる。喉も渇いて当然やろう。
忙しなく動く喉をじっと見つめてたら不意に謙也さんの視線がこっちに向けられた。
慌てて自分もココアの蓋を開けて一口啜る。

「甘い?」
「そりゃココアやし」
「そっか」
「そうです」
「そやなぁ」
「…何なんですか」
「光」
「はい」
「ごめんな」

会話に乗せてさらりと言われた言葉に、一間置いて反応した。目を丸くして謙也さんを見れば、困ったように笑っていてその言葉の意図は読めない。

「え?」
「やからごめんな、って」
「…何が、ですか」
「試合。ダブルス出来んくて」

聞いておいて、そう返されるのはなんとなく予想が出来てた。そうやった、謙也さんはこういう人やった。
きっと自分の所為で俺にまで試合を放棄させる事になったと悔やんでいるんやろう。謙也さんの横顔は、やっぱり辛そうに見えた。

「俺もお前とダブルス、したかってんけどな。四天宝寺が決勝進む為には、あれが最善やと思ってん」
「…そう、ですね」
「でも、結果お前を試合にちゃんと参加させてやれんかったんは悪かったと思ってる。全部俺が悪い」
「………」
「やから、ごめんな」

ぽん、と頭に暖かい掌が降りてくる。そのまま数回撫でられて、酷く泣きたくなってしまった。
この人の手が暖か過ぎて、優し過ぎて。人の事ばっかり考えて心を痛める、この人を知り過ぎて。
そして知っていても理解る事が出来ていなかった、自分ばっかりな俺が悔しくて。
ぐ、と奥歯を噛み締めて堪える。今、謙也さんの前で泣く訳にはいかない。
もう、これ以上この人を自分が苦しめてはいけない。
頭に置かれた手を軽く払って顔を背ける。そんな事ぐらいしか自分には出来なかった。

「別に、平気っすわ。俺には来年もあるんで」
「そやな。でも、光には謝っとかなあかんなって思ってん」
「なんで?」
「なんでて…お前、俺とダブルスしたかったやろ?」
「………は?」

目を丸めてまじまじと謙也さんを見る。あっけらかんとした表情でさらりと言われたその言葉に、思わず背けた顔を戻してしまった。
驚きで涙も引っ込んだが、そんな俺を見て謙也さんは今度は楽しそうに笑う。

「は?やあらへん。お前が俺とダブルスで試合したかったやろうから、出来んでごめんなは言っとかんと」
「や、あの、」
「まぁでも、一生出来ん訳ちゃうしな。高校ではリベンジしようや」
「謙也さん」
「ん?」
「誰情報ですか、それ」
「それって?」
「俺が謙也さんとダブルスしたがってたって」
「俺情報や」
「………」

あまりな切り返しに空いた口が塞がらない。さも当然といわんばかりに言い切った謙也さんは、続けて得意げに口を開いた。

「俺、光の事やったらなんでも知ってるから」

満面の笑みで、そんなおかしな事を言う。たっぷり十秒くらい黙って、沸々と怒りが湧いてくるのがわかった。
俺の事を何でも知ってる。謙也さんはそう言うけど、俺はいつだって謙也さんが知る俺以上の謙也さんを知っていた。
出会ってからこっち、その順位が入れ替わった事なんて一度もない。
だって謙也さんは俺に恋して無い。その事実がある限りそんな事ある筈無かった。
やのに今、目の前でそんな事を言ってくる謙也さんに腹が立つ。眉がつり上がって怒りが表情に表れるのが自分でもよくわかった。

「嘘吐けや」
「嘘ちゃうよ」
「嘘や、そんなん絶対嘘」

力強く言い放って、きつく拳を握りしめる。
そうして怒りを露わにしても、謙也さんは微笑んだまま。目の前にぐーを差し出してから、人差し指を立てて示す。

「好きな食べ物は白玉ぜんざい」
「…そんなん皆知ってますわ」
「苦手な教科は古典」
「こないだテストの話題したとこやから知ってるだけでしょ」
「ピアスホールは五個」
「見た誰でもわかるわ」

一個ずつ、同じ部活に所属していれば大抵の人は知っていそうな自分のデータを上げ、謙也さんは言い足しながら立てる指も増やしていく。
一つずつ突っ込みを入れる行為が面倒になり、謙也さんの両手がぱーにされた時、やはりこの人の知っている俺は俺の知っている謙也さんを上回りはしないと大きく溜息を吐いた。

「…終わりですか?そんなもん、部長もユウジ先輩も師範すら知ってますわ」
「そうか?」
「そうです。なんでも知ってるなんて、やっぱ口だけやん」

吐き捨てるようにそう言えば、謙也さんは少し悩む仕草を見せてから「そうかもな」とあっさり引いてしまう。ほら、やっぱり。
恋する中二男子を舐めるなよ。俺に恋して無い謙也さんが、謙也さんに恋してる俺に勝てる訳なんてない。
そんな、実質負けているのは自分の方ではないかと思いつつも内心勝ち誇る。非常に虚しい上複雑ではあるが。
けれど謙也さんはふんと鼻を鳴らすと俺に向かってもう一度ぐーを差し出した。
まだ喰い下がる気かとぐーを見つめると、ゆっくりと再び人差し指が立てられる。

「なんでも、は間違えたわ」
「は?」
「俺、光の事なんでもは知らんかもしれんけどな」
「はぁ」
「とっときの一個だけ、は知ってんで」

そう言った謙也さんは満面の笑みで自分を見つめていて、少しだけ頬が熱くなった。
とっとき。とっておき、の一個。自分のそれを知っていると、そう言った謙也さんは。
理解が追い付かない俺を無視して、その立てた人差し指をそっと自分自身へ向けた。

「好きな人、忍足謙也」
「………」
「やろ?」

くい、と首を傾げてみたりなんかして。可愛子ぶってるつもりなのか。
そういう仕草は女の子がするから可愛いんであって、がたいのいい中三男子がやっても全然可愛らしくもなんともない。
そこまで思考を巡らせてから、はた、と全ての機能が止まる。いや、止まったかと思った。
目の前のこの人は、今、何て言った?

「あれ、光?何固まってんねん」
「………は?」
「あ、別にボケてるわけちゃうからツッコミ考えてるならいらんで」
「はぁ……っていや、そうじゃなくて」

心配そうに顔を覗き込んでくる謙也さんから少し身を引いて、先程言われた台詞を思い返す。
好きな人、忍足謙也。やろ?
やろ?やろって事は、一応疑問形?いや、疑問形にされてたとしてもこの台詞は何かおかしくないか。
要するに、謙也さんは俺に向かって「お前の好きな人は俺やろ」って言って来たって事。
と、言う事は。自分の気持ちは謙也さんにばれていたと言う事、なのだろう。
そこまでを理解したと同時、一気に顔が熱くなる。なおも近い謙也さんとの距離を勢いよく離しにかかった。

「っ、な、なな、何…!」
「あ、ほら正解。光顔真っ赤やで」
「ちがっ、これは……」
「とっときの一個、知ってたやろ?」

得意げな顔でそう言う謙也さんはむかつく位に笑顔。なんでそんな、と思ったところではたと気付く。
おそらく俺程ではないだろうけど、頬がうっすら赤い。浮かべた笑顔も、どこか気恥かしそうなもので。
冷静に眺めて見れば、ああそうか、と全てに合点がいった。

「…俺も、結構謙也さんの事知ってます」
「お、なんや張り合う気か」
「好きな食べ物、青汁とおでんのすじ肉」
「そやな」
「苦手な教科、世界史」
「こないだ赤点取ってもうたわ」
「あほみたいな金髪」
「あほみたいてなんやねん!てかそれこそ見たわかるやろ」

謙也さんが癖毛をくしゃりと混ぜた刹那に、視線が絡む。
後一個、確証が欲しい。でないとこんな恥ずかしい事、面と向かって言える筈無い。
そっと手を伸ばして、くるんと跳ねた髪を撫でた。途端、微かに謙也さんの肩が揺れる。
絡み合ったままの視線に、熱が籠った。ふいに、緊張が溶けて自然と笑みが零れる。

「今、俺も謙也さんのとっとき、わかりましたわ」
「…何や。言うてみろ」

唇を尖らせて、挑発するように言ってみてももう遅い。
こうして俺にわからせる事が目的だったくせに。ほんましてやられた。
けどその分仕返しはしないと気が済まない。顔が熱いのは無視して、出来るだけいつものように悪い笑みを浮かべて言ってやる。

「好きな人、財前光、っすわ」
「…なんでお前疑問形やないねん」
「俺の場合後出しじゃんけんなんで」
「ずっこいわ」
「謙也さんがそう仕向けてくれた癖に」

そう、この人はそういう人だった。
いつでも自分より他人。誰よりも周囲に気を配って、よりやりやすい道を作ってくれる。
けど、でもまさかこんな道まで用意してくれるなんて思いもしなかったけど。
不意に腕を引かれて優しく抱きしめられる。これ以上俺を喜ばせてどうするつもりや。

「光」
「はい」
「好きや。結構前から」
「…それは知らんかった」
「ははっ、俺の勝ちやな」
「しゃーないからいいっすよ、俺の負けで」

そう言って、謙也さんの背中に腕を回してしがみついた。
俺の知る謙也さん。謙也さんの知る俺。
それらが、ぴったり一致した日。
この腕を離す前に、俺もちゃんと言おう。

ずっと前から、好きでしたって。


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若干「些細な事〜」の続きっぽい。ほんと若干。
どうしても謙也くんに「好きな人、忍足謙也」って言わせたくて…元ネタは友人Jのみが知る(笑
例の幻D1話しはまた別パターンでも書きたいです。謙光と言えばこのネタですもんね。
謙也くんは多分光の気持ちには早い段階で気付いてて、追っかけるように自分も好きになったから告白した感じです多分。
もうこの二人が幸せならそれでいい。結論。


10.06.01