「制服のブレザーとはちゃいますね、やっぱ」

きゅっとネクタイを締めて鏡に全身を映す俺の後ろで、ベッドに腰掛けた光がぽつりとそう呟いた。
振り返りはせず髪を弄りながらそうか?って返したら鏡越しに頷く光が見える。光は俺を下からじっと眺めていって、視線が頭に行き着いたと同時にふっ、と小さく吹き出した。

「わざわざ染めんでも良かったんちゃう?」
「最近会うてない奴らに気づかれんかったら嫌やん。俺と言えば金髪って根付いてるやろし」

言われて指摘された髪に指を伸ばす。毛先を摘めば、明らかに昨日までとは違うごわついた感触がした。
中学卒業と同時に茶色く染めた髪。世間体や校則を気にした結果のそれは今、再び金色に輝いて存在を主張してる。

「たかだか成人式にんな気合い入れんでも」
「あほ、ここで気合い入れんでどうすんねん」
「ふーん…そんなに昔の同級生にモテたいんや」

ややふて腐れた声音で吐き出した光のそれは、多分本音でも冗談でもない。もっと曖昧な感情の上で言った言葉、のような気がする。
もう一度鏡を通して見たら、光は軽く唇を尖らせて頬を膨らませてた。
昔は絶対しなかったそんな表情もただのポーズってわかってるから、焦って取り繕いもせんと鼻で笑っておく。

「俺がモテたら光くんは困るもんなー」
「困りますよ。19歳にもなって、今更放り出されたらどうしていいかわからん」

19歳。今の俺と、光の年齢。
20歳に後一歩届かんまま迎える成人式は今更決心を鈍らせる。髪を金色に戻した理由も、ほんまはそこにあるのに。

「……光」

ベッドに並んで座って、ほとんど同じ位置にある頭を抱き寄せた。ぎゅってするだけで全部、全部伝わればええのに。

学生の俺が、社会人の光に。
まだ20歳ではないけど新成人になる俺が、あの頃と同じ姿で。
伝えたい事が、あるのに。

「…そっちこそ、捨てんといてや。俺の事」
「…冗談、ないわ」
「うん」

後少しで言えそうな事を、言えなかった19歳の冬。成人式、前夜。




11.01.15